石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

人民元はどこへ向かうのか?

大和総研副理事長で平素から何かとご指導を頂いている川村雄介さんから『習近平時代の中国人民元がわかる本』という著書をお贈り頂きました。この本は川村さんが監修をされ、大和総研の研究員さんとの共著となっています。前回は『ミャンマー開国 その経済と金融』(金融財政事情研究会)をご寄贈頂きましたので、この度は2冊目となります。

イメージ 1

本著の目的は、近年急速に通貨の国際化や自由化を進めている人民元の現状と可能性を考察することにあると言えます。ここで言う「通貨の国際化や自由化」とは、小生なりに解釈すれば、自国通貨が国際的に通用することを意味し、その通貨が自由に流通しなければなりませんので、ある意味では、自由化は国際化の必要条件であると言えます。

イメージ 2

何故、中国において「通貨の自由化」が注目されるのかと考えると、やはり、中国という国家自体に政治システムである社会主義体制のイメージが付きまとっていることと関係があるように思われます。加えて、実際に10年ほど前までは、外国企業が人民元を容易に扱うことは出来なかったことにも起因していると考えられます。

しかし、そのイメージを払拭するように、本著では、中国のことを「社会主義市場経済」と定義し、統治システムとしての社会主義と経済経営システムとしての市場主義を止揚的概念で捉えることを読者に促しています(特に、日本人の既成観念での中国解釈を戒めています)。

人民元の国際化に関して、その貿易決済に係る規制緩和の流れは、2009年7月に中国5都市と香港、マカオASEANとの間で、当局に認定された365社に人民元決済が解禁されたのを皮切りに、順次拡大され、2012年3月には輸出入経営資格を有するすべての企業に拡大されました。決済額も35.8億元(2009年)からわずか4年で2兆9442億元(2012年)となり、貿易総額の12.1%までに上昇しました。

イメージ 3

一方、日本との関係については、2012年の日中貿易は、26兆5447億円(日本の輸出は11兆5110億円、輸入は15兆337億円)で日本にとっての最大の貿易相手となっています。そんな中、金融分野では、2012年6月に円と人民元との直接取引が開始されました。このことは、日本にとって実務面やコスト面でのメリットもさることながら、人民元のオフショア取引所となったことを意味し、東京が国際金融センターを目指す上で極めて重要な出来事と言えるでしょう。国際的に見ると、実は、このオフショア取引所の開設は、英国も構想しており、日本はそれに先駆けて実現し、国際金融市場での立場を優位なものにしました(この実現には日本の官僚の弛まぬ努力があったということは特筆すべきです)。

近年、人民元を取り巻く環境で、米国は人民元が米ドル対して不当に安いという批判を繰り返していました。「アベノミクス」の効果かどうかは懐疑的ですが、円高から円安に転じ輸出企業の収支が劇的に改善したことからも明らかなように、安い人民元を背景に経済発展を続けている中国に対して、米国がその是正を訴え、ある種の圧力をかけていました。しかし、本著では、データをもとにした冷静な議論が展開されています。人民元は、米ドルに対して2005年から2013年3月末までに通算で24.3%の切り上げを実施しており、実体経済を反映した為替レートのレベルに近づいていると指摘しています。逆に、国際マネーの流動性や「人口ボーナス」による国内成長が期待できない状況では、人民元の切り上げすら起こりかねないと示唆しています。

イメージ 4

「通貨の国際化」に必要な3つの条件は、
・世界全体の経済規模や貿易額に占める当該国のシェアが上昇すること
・資本取引に関する規制緩和(自由化)と金融・資本市場の整備と開放
・通貨価値の安定
です。
1つ目の条件は十分クリアしていますが、中国は2つ目の条件に関して、本腰を入れて取り組まなければ、人民元の国際化は実現しませんし、基軸通貨としての人民元は夢のまた夢だと思いますので、今後、この点において中国がどのような動きをするかに注目する必要があります。

本著を拝読して、日本もアジアや極東地域の安定のために、ここ数年金融自由化を積極的に進めて、海外からの投資を呼び込もうとしている中国やミャンマーベトナム、インドなどのアジアの経済情勢を的確に把握し、戦後の経済発展で得た知識やすでに保持している経済及び金融システムを生かし、持続可能な経済発展に貢献しなければならないと感じました。