石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

『日本の工芸を元気にする!』

中川政七さんから自著である『日本の工芸を元気にする!』(2017、東洋経済新報社)をご恵贈賜った。

これまでも 株式会社中川政七商店 は、拙ブログに何度も登場しているし、特に、ご本人に関して言うと、昨年11月に、本名の中川淳から十三代中川政七を襲名 したことが記憶に新しい。本著は、中川さんが平成14年(2002年)1月にそれまで働いていた富士通株式会社を退社し、家業である中川政七商店に戻ってきてからの約15年間(実際には、大学時代のサッカーサークルの活動のエピソードも入っているが)のお話である。お話と言うと、中川さんに「違う!石原はわかっていない!」と言われるかも知れない。しかしながら、自叙伝と言うには集大成的ではないし、ハウツーもののビジネス書と言うには直線的ではないし、経営者の自己啓発本と言うには啓蒙的ではないし、物語と言うには語りが少ないので、お話という漠然とした表現になってしまった。つまり、このお話は、通過点であり、複線的であり、ある一定の博識者(経験者と言ってもいいかも知れない)にしか理解不能であり、論理的である。

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ただ、さすが、5,400億円(1983年度)→2,000億円(2003年度)→1,000億円(2014年度)と生産額が落ち込んだ伝統工芸品業界を目の前にして、「日本の工芸を元気にする!」と言い切るだけの人物であり、中川政七商店が事業拡大しているのはもちろんのこと、「日本の工芸を元気にする!」ために全国各地の伝統工芸品メーカーを自らもリスクを取りながらコンサルティングしているだけあり、読者つまり消費者にインパクトを与える仕掛けが随所に盛り込まれており、例えば、この15年間の節目を「三つのキラーパス」で端的に表現している(ちなみに中川さんはサッカー経験者である)ところは、戦略的である。

一本目のキラーパスは、会社に戻って小売業を始めたこと(PP40)。
二本目のキラーパスは、コンサルティング業務を手掛けたこと(PP140)。
三本目のキラーパスは、「日本工芸産地協会」と「さんち構想」を実現するためのプラットフォーム事業(「さんち手帖」「さんち商店街」「さんちのしごと」の三つのプラットフォーム事業))を立ち上げたこと(PP242-246)。

ただ、中川さんは、目次に「二本のキラーパス」と記述しているが、「三本目のキラーパス」については項目立てをしていない。これは読者への問答を仕掛けているのか、三本目のキラーパスが未来形であるからか、それ以外に理由があるのか、小生にはわからない。

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経済には不案内な小生が申し上げるのではあまり信ぴょう性はないが、小生が中川さんを信用しているのは、問屋機能(物流、在庫調整、与信管理、情報提供の機能)を果たし(PP149)、かつ、「適正利益」や「四方よし」を重視し(PP160)、産地つまりメーカーの持続可能性の担保に配慮しているところである(我々の業界で言えば、「ふるさと納税による返礼品合戦」や「財政の裏付けも事業目的も不明な住民サービスのチキンレース」を志向し、自ら現在だけでなく将来すらも一顧だにしない独善主義とは対極にある)。

本書全体を通じてに加えて、中川さんの経営に対する姿勢からは、日本酒を醸造する際の精米工程のような印象を受ける。当然、大吟醸である。自らの手の内もしくは将来手にするであろう素材のすべてを磨き上げ、純度を高め、それでもなお残った本質から生まれるものを信じて進むという姿勢である。当たり前の話ではあるが、そこには経営者にとって重要な素質である野心という隠し味も存在していると確信しているし、それは隠し味であるからこそ意味がある。

若手経営者が手に取れば自らの考え方を仕分けすることに役立つであろうし、事業継承を考えている経営者が手に取れば後継者の資質を一考する一助になると思う。

本書と同じ宅急便にて、東大寺のお水取りの間、須弥壇の四隅に飾られる椿の造花を形どった生菓子「糊こぼし」をご恵贈賜った。大変興味深い著作を奈良に伝わる和菓子で糖分を補充しながらの読書は至福であった。

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