石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

賃料国家

2010年の年末辺りからアラブ諸国で起こっている反政府運動の「アラブの春」について、なかなか深く考える機会もなく月日が流れていました。うっかりしているのはいつものことですが、やはり東日本大震災インパクトが強過ぎたことが、小生が関心を持てなかった最大の理由だと思います。
今年1月に起こった「アルジェリア人質拘束事件」の背景には、アラブ諸国の政治状況が色濃く反映しているとの見方もあり、現代アラブ社会の歴史や政治などを概括するために、ざっと斜め読み。

アラブ諸国にとっての歴史的体験として
・消えない十字軍症候群
オスマン帝国の崩壊とその後の混迷
植民地主義パレスチナ問題
の3つが指摘されていますが、イスラム側にとって、聖地エルサレムを奪還したにも関わらず、イベリア半島をはじめとして版図全体からみると喪失領土の大きさにより、それが敗戦の悔しさを持って語られることが意外でした。

イメージ 1

エジプトのフスニ・ムバラクイラクサダム・フセインリビアカダフィチュニジアのブルギバとベン・アリ、シリアのハーフィズ・アサドとバッシャール・アサド、イエメンのサーレフなどの著名な独裁者の政権運営やその後の失墜などが取り上げられており、なかなか興味深く拝読致しました。

それぞれの国で違いはあるものの、軍事独裁制を敷いてきたことが共通点として挙げられており、最近までは「アラブの春」においてもそれが批判の対象になることがなかったことを見ますと、イスラム過激派との力学関係において、民衆の側もある程度軍事政権を受け入れていたということになるのだと思います。

「賃料国家」という言葉も初めて拝見しました。これは、「国家歳入の50%以上が石油など非労働収入に依拠している場合」を意味しており、「基本的な富は自然に流れ出てくると考えている」状態を指します。「やはり、資源大国はいいなぁ~」となり、国民も納める税金も少なくていいのですが、逆に税金の使途に関する関心が低くなり、引いては、国家運営に対しての意識も希薄になる可能性もあります。この点は民主主義を再考する良いヒントを頂いたと感じました。あと、イスラム過激派やムスリム同胞団などの動向と産油国とそうでないアラブ諸国反政府運動の関係性を読み解く鍵が隠されているかもしれません。

チャーチルのしゃっくり」のようなトリビア的な知識、上意下達の性格が強い宗教的背景を持つイスラム社会に、個々の意見に端を発する議論を経て社会的な意思決定がなされる民主主義がそもそも適合するのかなどの問題も興味深く拝読しました。

権力を取り巻く新旧の対立、宗教と非宗教の対立、文民と軍部の対立など一筋縄ではいかないアラブ事情の入門編としては良書だと感じました。