石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

12月8日の朝に

本日12月8日は何の日でしょうか?

プロレスファンの方であれば、力道山が赤坂のナイトクラブで刺された日(後に死亡)として記憶されているかもしれませんし、ビートルズファンであれば、ジョン・レノンが射殺された日として脳裏に刻み込まれているかもしれません。

それらも耳目を集める出来事ではあるには間違いありませんが、日本国の命運に多大なる影響を与えたという意味からは、太平洋戦争の緒戦となる真珠湾攻撃の日であることは忘れてはならないと思います。真珠湾攻撃のまさにその1941年(昭和16年)12月8日に先の6日(金)の深夜に参議院で可決したことを受けて、成立した「特定秘密の保護に関する法」(=特定秘密保護法)に関わってある重要な事件が発生しました(少なくとも小生は重要であると思っています)。

いわゆる宮沢・レーン事件 です。

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この事件は、当時、北海道大学の学生であった宮沢弘幸と北海道大学予科の英語教師であったハロルド・メシー・レーンとその夫人であるポーリン・ローランド・システア・レーンが軍機保護法違反容疑で逮捕され、非公開裁判の結果、当人らは全く身に覚えのない罪で懲役12年~15年の判決に処されたものです。もちろん終戦と同時に宮沢もレーン夫妻も釈放されましたが、宮沢は拘束中の拷問や服役中の食糧事情などによって、心身の衰弱は激しく、1947年(昭和22年)に亡くなりました。

この『ある北大生の受難 ー国家秘密法の爪痕ー』(上田誠吉(2013)花伝社、1987年に朝日新聞社から発刊されたものの復刻版)は、この事件の真相を裁判記録から追跡しようとしたにも関わらず、全く記録が残っていないという壁にぶち当たるものの、粘り強い調査の末、大審院判例資料からようやく彼らにかけられた容疑が何であったかを明らかにしています。その容疑というものは、公知の事実で誰もが知っている根室にある海軍飛行場の存在や自らがその設置工事に従事した樺太大泊町の石油タンクの存在と規模などの「軍事機密」をアメリカ人であるレーン夫妻に話をした行為(宮沢は機密を漏泄し、レーン夫妻は機密を聞き出した)が、軍機保護法違反に当たるというものでした。

根室の飛行場については、北米合衆国の飛行王と称せられるリンドバーグ大佐が、1931年(昭和6年)にアリューシャン列島を経て根室に着陸した際に、大々的に報道機関などで取り上げられ、日本のみならず米国でもその存在は知られていました。

また、以下、1937年(昭和12年)の軍機保護法改正案の帝国議会衆議院軍機保護法改正法律委員会の議事録にあるように

名川侃市委員:下関には砲台があると云うこととを言ふものもやはり是が軍事上の秘密として探知収集を許さぬと云う意味になるのでありますか。
岩畔陸軍中佐:此位置と申すのは正確なる位置でありまして、今仰しゃったやうなことは、茲に該当致しませむ。
名川委員:その正確と云う程度は、どの程度のものでございませうか。
岩畔中佐:限界ははっきり申せませぬが、例えば、五万分の一の地図の程度、十万分の一の地図の程度で、山あり川あり、其れ等の関係がはっきりして居る、其の何処何処に要塞がある。斯う云うことに大体なると思ひます。
名川委員:然らば宮島の山の上に砲台があると云う如きは、是は一つの軍事上の秘密と云うことになるのですか。
岩畔中佐:其程度は今の限界の問題でありますが、まだ其程度はならぬと考えへております。

立法過程においての議論を見る限り、宮沢の話した内容が機密に当たらないことは明白です。

さらに、宮沢の「探知」行為に対しては、軍機保護法制定に際して、衆議院の同法案審議委員会が特に「本法に於て保護する軍事上の秘密とは、不法の手段によるに非らざればこれを探知収集する事を得ざる高度の秘密なるを以て、政府は本法の適用に当りては、須く軍事上の秘密なることを知りてこれを侵害する者のみに適用すべし」と附帯決議まで附しているように、全く探知には当たらないと考えられます。

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ここでの議論や附帯決議を見ただけでも、「秘密とは何なのか?」や「秘密の基準はあるのか?」や「秘密と知らないで人に伝えたらどうなるのか?」など今国会で可決成立した特定秘密保護法での問題点と重なり合うことをお気付き頂けると思います。確かに、昭和10年代の警察制度や裁判制度と現在のそれとは、人権保護の観点から大きく異なっていると言えますので、直ちにこの「宮沢・レーン事件」のような冤罪事件が起こるとは限りませんが、本事件から我々が看過することなく類推しなければならないことは、行政の運用次第によっては同様の事案が発生する可能性を秘めているということです。

特定秘密保護法が、国家機密が他国に漏れないことを目的の一つとしているとはいうものの、この事件はもとより、第102回及び第108回国会を踏まえ、成立した特定秘密保護法に対して今後の運用をしっかりと観ていかなければならないと思います。