石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

反転攻勢 (『カウントダウン・メルトダウン』その2)

東日本大震災に伴う福島原発事故において最悪のシナリオは、第一原発の1号機~6号機(特に、1号機~4号機)が制御不能に陥り、放射線量の上昇によって、福島第二原発も含めて敷地内での直接的な事故対応が出来なくなり、東京を含む東日本が壊滅的になることでした。

結果としては、それは回避された訳ですが、15日の未明から17日の自衛隊の放水までの間は、最も危機的状況に陥った時間帯であったと思われます(本書(『カウントダウン・メルトダウン』)では「15日の2号機の格納容器の損傷と4号機建屋の爆発から16日のヘリ空撮映像での水の確認までの間、もう少し広げるとその後の3号機の燃料プールへの放水作戦を経て高所放水の可能な放水車「キリン」の登場までの間が、「最悪のシナリオ」に向かいかねないフェーズだった」(下巻181頁)と規定している)。

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小生は、筆者の規定する時間帯に賛意を示すものの、2号機の格納容器の損傷と4号機建屋の爆発の起こった06:10より以前の15日未明と考えています。なぜならば、東京電力の本店では、福島原発からの撤退、つまり事故対応作業を放棄することが検討され始め、それが現実のものとなりつつあったからです。繰り返しになりますが、福島原発からの東電職員の撤退は、東日本の崩壊つまり日本の半分を失うことを意味します。

東電側は海江田経産相に撤退の意思を伝えましたが、当然のことながら、菅首相をはじめとする政府側は、東電の撤退はあり得ないという立場を取っていました。一方で、同じ東電であっても現場の指揮官である吉田昌郎所長は危機的状況ではあるものの、「まだやれる」との認識を持っていました。

15日の03:30から菅首相、枝野官房長官、海江田経産相、松本外相など13名の関係者が集まり、東電の撤退について議論をして、「撤退はあり得ない」との結論に達し、04:17に東電の清水社長らを官邸に呼び出して、その旨を伝達し、併せて東電本店内に情報の共有と迅速な把握のために、政府と東電の統合対策本部を設置することを言い渡した。それを受けて、05:26に「福島原子力発電所事故対策統合本部」が設置された。危機的状況を決定付けた2号機の格納容器圧力抑制室の損傷と4号機建屋の爆発が未発生だったことが不幸中の幸い(この損傷と爆発が起こっていれば、東電側から撤退理由に上げられていたことは間違いないと考えられます)だったと思われますが、この瞬間に政府が不退転の決意でこの事故に挑む姿勢が決定的になったことは間違いありません(この不退転の決意の裏側には、米国との関係における日本の独立国の矜持が影響を与えているとも考えられますが)。

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          【放水作戦に用いられた同型のヘリ(CH-47J)出展:自衛隊のホームページ】

ただ、東電の撤退問題と同じように、政府の原子力事故に対する現地対策本部である福島県原子力災害対策センター(いわゆる「オフサイトセンター」)の移転問題(大熊町から福島市への移転)が、政府内に浮上しており、東電の撤退とは同レベルでは語ることは出来ないとはいえ、民間事業者に撤退を許さず、政府機関が撤退をすることは国家としてのあり方として問題があったというべきでしょう。こういった矛盾を孕みながらも、オフサイトセンターの移転は、15日の08:00に決定され、09:00過ぎに実行に移されました(1時間のタイムラグは、避難区域の住民避難が完了していなかったことによるとされているが、5km以内にあった双葉病院など避難が出来ていない住民がいたことも明らかになっている)。

この15日未明からこの後の17日の10:00過ぎまで、原発事故に対して危機的状況が続いていく訳ですが、その危機的状況から反転攻勢に出るきっかけになったことは、皆さんの記憶にも残っているように、自衛隊のヘリコプターによる上空からの放水作戦です。当時、小生自身もテレビ映像を見て、原発事故の状況を根本的に解決するには「焼け石に水」だと感じましたが、本書を通読する中で、政府が一丸となることと国家の非常事態に自衛隊が果たすべき役割を明示的に示し、事態を好転させていく大きな第一歩であったと考え直すようになりました。

ここで印象的なやり取りを記しておきたいと思います。15日の16:00前、自衛隊による放水作戦に関わって、北澤防衛相と折木良一統合幕僚長菅首相を官邸に訪れた。その際、両名に「ヘリによる放水作戦をどう思うか?」と尋ねた菅首相に対して、折木統合幕僚長は「総理、どう思うかと聞くのはやめてください。行け!と言ってください。命令されてやるのが自衛隊です。相談されても困るんです」と即答しています。まさに至言だと思います。他の原発事故への対応場面にも散見されますが、専門家や官僚に客観的事実を尋ねるのであればいいのですが、事態を総合し、判断をすべき政治家が、相談をしたり、お願いをしたりすることは、特に危機管理の場面では避けなければならないですし、であるからこそリーダーの果たすべき責任は大きく、最終的に孤独に耐えうる精神力が必要になると感じました。