石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

『全日本プロレス超人伝説』

職業柄(小生の立場を「職業」というのはいささか変かも知れませんが)年輩の方とお話をする機会が多々ありますが、娯楽やスポーツの話題になり、たまたまプロレスの話になった場合、最も気を遣うのは、先方がジャイアント馬場派なのか、アントニオ猪木派なのかということです。単なる思い出話としてのプロレス話であれば全く問題ありませんが、馬場もしくは猪木のいずれかに思い入れのある方であれば、話は慎重に進める必要があるのは、昭和40年代後半から20年間のプロレス全盛期を知るものであれば、常識の範疇と言えます。

冒頭から少々力が入りすぎてしまいましたが、本書は、そのような常識の範疇を初心者にも分かり易くフォローしてくれる良書であり、ジャイアント馬場の人となりや生き方、興行師としてのセンスや矜恃といったもの知ることが出来ます。さらに、全日本プロレスのマットを盛り上げ、継承していった弟子や外国人レスラーの人物像を多彩なエピソードを用いて紹介してくれます。プロレスに関する知識も去る事ながら、マット以外での人間模様やドラマを改めて通読し、集団が自らの存在意義をかけて、主張し、行動し、闘っていく様には崇拝の念すら湧き上がってきました。

イメージ 1

ご承知の通り、力道山らが立ち上げた日本プロレスは、1963年12月に力道山が死去すると、求心力を失い、徐々に崩壊の一途を辿ることとなりました。一時、馬場と猪木が「BI砲」と呼ばれるタッグを組んで、黄金時代の人気を取り戻すかに見えましたが、経営内部の問題により、1972年3月に猪木が新日本プロレスを、1972年10月に馬場が全日本プロレスをそれぞれ旗揚げしたことにより、崩壊は決定的となりました。

本書は、全日本プロレス新日本プロレスの「双頭のプロレス」時代を振り返るところから始まります。その象徴的な場面として、1974年8月のNWA(ナショナル・レスリング・アライアンス)の年次総会が取り上げられ、そこで、馬場率いる全日本プロレスのNWA加盟が正式に認められ(1973年2月の緊急役員会では承認済み)、猪木率いる新日本プロレスの加盟は相変わらず認められない(1975年9月に新日本プロレスのNWA加盟が承認されるも、猪木は認められず、認められたのは坂口征二新間寿の2人)という興行としてのプロレスの意義をまざまざと見せ付けられます。ここには、馬場の徹底した猪木排除の姿勢が貫かれており、この2人の間の溝の深さを示しているといえます。

特に、外国人レスラーの引き抜き合戦は、その争いを顕著に表しており、まずは、新日本プロレスが、81年5月に全日本所属の 黒い呪術師 アブドーラ・ザ・ブッチャー を、続いて、ディック・マードック、タイガー戸口を引き抜き、それに激怒した馬場が、当時のドル箱選手であった スタン・ハンセン を81年12月に引き抜き、ブルーザー・ブロディ とタッグを組ませました。そのほかにも81年には、タイガー・ジェット・シン上田馬之助を、84年11月には、ダイナマイト・キッドデイボーイ・スミス も引き抜き、興行師としての馬場の執念の恐ろしさを感じさせます。

どうでもいいことですが、金髪レスラーで名を馳せた上田馬之助は、今になってみれば流行の最先端を行っていたのかと改めて思いますし、彼は、大相撲時代は、現在は遠藤関が所属する追手風部屋であったことは特筆すべき点かも知れません(笑)

馬場以外の章では、基本的には、ジャンボ鶴田ザ・デストロイヤーミル・マスカラスザ・ファンクスザ・グレート・カブキなどが筆者のベストバウトと人間模様とともに紹介されています。

リング外での話題として目を引いたのは、早世した三沢光春(どうでもいいことですが、10年くらい前に全くの偶然にも浜名湖サービスエリアで見かけて、握手してもらいました)と馬場元子婦人の確執です。オーナーである元子夫人と社長である三沢の経営方針の違いとは言えども、この二人の仲違いが、全日本プロレスを弱体化させたことは間違いないと考えると残念でしょうがありません。

40年に以上に及ぶこれらの確執や分裂などを見ていると、ある一つの相似形に思い当たりました。竹下派七奉行の派閥抗争による自民党の分裂とその後の政界の小党乱立の状態です。もちろん、プロレスと国政を同じ次元で考えることは飛躍しすぎの謗りは免れないと自覚しつつも、現在の政界の動きは、プロレス界の20年遅れを歩んでいるのかと、ある種の既視感を感じずにはいられませんでした。やはり、組織運営や集団統率には、人と人との確執や権力闘争が必須ということなんだと再認識しました。

最後になりますが、ジャイアント馬場の出身地の市長であり、全日本プロレス旗揚げの年にこの世に生まれ出ている 三条市長の國定勇人 さんにはぜひ読んで欲しいと思います(笑)