石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

ジジェクの眼差し

『21世紀の資本』の著者であるトマ・ピケティ(どうでもいいことなんですが、ピケティは1971年生まれで、小生と同じ年生まれ)が、邦訳の出版元である みすず書房 のプロモートで1月29日~2月1日の行程で来日したことは記憶に新しいと思います。

来日のみならず米国など各国を訪問した際のハードスケジュールから「ロックスターのようなエコノミスト」と称されているように、日本滞在期間でもタイトなスケジュールだったようです。もともとタイトなスケジュールに加えて、古市憲寿も『新潮45』(2015年3月号)で書いているように、NHKの看板番組である「クローズアップ現代」の収録で、国谷裕子キャスターが張り切り過ぎて(笑)、かなりの時間延長になったことなどもそれに拍車をかけたようです。

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これだけのブームですので、色々なアンチョコ本が出ていますが、『現代思想』(2015年1月臨時増刊号)は内容の濃いものでした。ピケティのインタビュー自体が良いとか、クルーグマンの寄稿が分かり易いなどもその評価を高めている要因でしょうが、小生は、スラヴォイ・ジジェクが、ピケティを空想的(ユートピアン)と断定している論稿が面白かったです(松本潤一郎訳、原文はこちら)。

ジジェクは、ピケティのいう富裕層への所得や資産への80%の課税を否定はしていない。ただ、それを実施した場合に起こる他の影響を顧慮すべきであるとしている。

「私は彼に反対しているのではありません。すばらしい案です。彼らに八〇パーセント課税をしようではありませんか。あなたがこれを実行したら、すぐお気づきになるでしょう。この措置はさらに多くの変化をもたらすことを要請するだろうと。これがわたしの主張です。一つの措置を取るだけで、その他のことは何も変えなくてよいと想像するだけなら、これは文字通りの空想(ユートピア)であって、ヘーゲルが抽象的思考という言葉で意味していたものです」

【原文】
「And this is why, again, I’m not against him, wonderful, let’s tax them 80 percent. What I’m claiming is that if you were to do this you would very soon discover that this would lead to further changes and so on and so on. I’m saying that it is a true utopia, and this is what Hegel meant by abstract thinking, to just imagine you can take one measure and nothing else changes. 」

ピケティが80%の課税だけで資本主義の矛盾を解決出来ると考えている訳ではないことを、ジジェクは知っていると思います。ではこれは誰に向けられた言葉なのでしょうか?単純な政策(累進課税を推し進める)だけで、複雑多岐な現実世界の矛盾が解消出来ると妄信している情報の受け手に向けられていると小生は思いますがいかがでしょうか?

世界の先進諸国では「資本主義と格差」の問題はしばらく続きそうですし、日本の場合は少子高齢社会の問題も加わって、より混迷を極めると想像されます。「改革」というお題目や見せかけだけのパフォーマンス、単純な政策などで乗り切れるほど安易な社会ではないと思います。