石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

IOCの、IOCによる、IOCのための「オリンピック」からの脱却

過日、経済産業省貿易経済協力局貿易振興課の投資交流企画官である鈴木恭一さんが、2020年東京オリンピックパラリンピックに向けた経済活性化について、当町と意見交換をするためにご来庁されました。肩書の上からも対日直接投資の拡大についてが、メインテーマでしたが、菰野町の現状に合わせて、外国人観光客の誘致に関しても政府の見通しなどのお話を頂きました。ギリシャアテネ大会)、中国(北京大会)、英国(ロンドン大会)の観光客数のトレンドを示された上で、昨年までの外国人観光客の特徴と今後の見通しのご説明を頂きました。

マクロにおける外国人の流れを捉えつつ、今後は、個別具体的な課題を克服する形(インターネットの活用は極めて重要な要素であると感じています)で、菰野町三重県北勢部の観光地のあり方も、言語(政治や経済、医療などの専門的な語彙は必要なく、安心感を与えるコミュニケーションのあり方など)、習慣(宗教的な面も含めて食文化への対応や日本独自の文化への理解促進)、交通ネットワーク(レンタカーによる移動を想定して、カーナビ情報との連動)、施設(客室のユニバーサル化と個人旅行対応)などの面で関係者と情報共有しなければならないと感じています。

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鈴木さんが来庁されるからという訳ではありませんが、ある知人に勧められて、アンドリュー・ジンバリスト(2016)『オリンピック経済幻想論~2020年東京五輪で日本が失うもの~』(田端優 訳、ブックマン社)を手に取った。小生も 2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合 の会長代行を仰せつかっているものの、東京オリパラ自体については、課題は山積していると思ってるし、別の問題として、長野五輪の例を出すまでもなく、誘致にまつわる国際オリンピック委員会(=IOC)の利権構造はより根源的な事柄であると認識はしている(ただ、IOC及び委員の多くは、この利権構造自体に疑問を抱いておらず、むしろ「便宜を図ってもらう」のは当然の権利と考えているかも知れないから、事態は余計に厄介である)。

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ジンバリストの主張は明確である。
オリンピック(実際は、オリンピック・パラリンピックだが、ジンバリストは「オリンピック」の表記を用い、議論の対象としているので、以降、「オリンピック」とする)は、IOCに多大な利益をもたらせているものの、開催都市に過大な負担を強いている。この利益と負担の割合を見直すとともに、オリンピックの開催が経済的に有益であるという神話を疑ってかかる必要があるということである。

至極当然の主張である。オリンピックの有無に関わらず、東京、ニューヨーク、ロンドン、北京、リオデジャネイロバルセロナシドニーなど世界各国の都市は、人口規模、産業別就業者数、失業率、出生率、公共交通整備状況、道路整備状況、国民所得、地価、物価、治安情勢、観光入込客数、宿泊施設など、それぞれの置かれた環境が異なっており、オリンピック開催そのものが、その都市や国を自動的に「豊か」にする訳ではない。都市のブランド力や情報発信、スポーツの振興といった分野における価値は認めるものの、公共政策全体としては、それは一部であり、行政や政治の役割は、持続可能な形での都市や国の全体最適を図るべきである。

本書では、短期と長期に切り分けて、オリンピック開催の弊害を浮き彫りにする。ジンバリストの主張も納得出来る点は多々あるが、こういった議論には往々にしてありがちの種々の問題点については事実を示して反証してはいるものの、それが全体構造に与える影響は考慮されていない。

例えば、オリンピックの開催中は、開催都市は多くの観光客で溢れるという言説に対しては、ロンドンオリンピックの開催中の観光客は、対前年比6.1%減少したという事実(PP81)を示しているものの、それはその言説を信用したり、その言説をオリンピックの効用としての説明に用いていたりした人々の無思慮や無分別に対しての効果は認めるが、それがオリンピック全体を揺るがすものでないことも事実である。

こちらの問題は、他の経済的要因との関連を調査しなければならないが、ロンドンオリンピックの数週間前に開かれた会議では、16の海外企業が英国の開発に携わっていると発表されたものの、海外からの直接投資は2012年~2013年の2年間の年平均で441.5億ポンドであり、金融危機直前の3年間の年平均の916億ポンドの半分にも満たず(PP149-150)、「遺産(レガシー)」に関わる問題も内実は深刻な可能性がある。

経済効果の算定にも疑義を呈している(PP60-66)。これは、ジンバリストだけでなく、巷間指摘されていることでもあり、逆行列係数に基づく産業連関モデルの限界を示している。期間中の観光客数による経済波及効果と言っても、観光客がゼロだったところに観光客が来るのであれば、その計算は成り立つが、前年と同じだけの観光客が来たのでは、経済波及効果に変化はない(オリンピック特有のホテル料金などの高騰はあるが)。また、大会期間前や期間中の警備に係る経費などがプラスの経済波及効果で上げられることがあるが、税負担の分(もし、他の公共施策に同様の税を支出していればどういう結果になったのかや、そんなに経済効果が期待出来るのであれば、オリンピック期間に限らず普段からそれぐらいの警備をしていればいいのではないかということ)をどう考えるのか、さらには、オリンピックが開催されたことで、経済活動が滞ったこと(交通規制や経済活動及び日常生活の制約など)など突き詰めることは多くある(今年伊勢志摩で開催されたG7サミットも同様である)。

結局のところ祝祭(=お祭り騒ぎ)の域を出ないのではないか?(笑)

小生としても、2020年東京オリパラを持続可能な形でまちづくりに活かせるよう冷静に全体最適な判断をして参ります。