石原まさたかの痛快!風雲日記(2.0)

使い方は追々考えます(笑)

東京オリパラ、トランプ、ヒトラーをつなぐもの

定期的に開催している読書会の課題が、エドワード・レルフ(2013)『都市景観の20世紀』(ちくま学芸文庫)だった。それを読み込む過程で偶然出会った著作が、松葉一清(2016)『現代建築のトリセツ 摩天楼世界一競争から新国立競技場まで』(PHP新書)だった。そもそもの課題図書である『都市計画の20世紀』の原書は1987年に出版されており、そこでは、建築分野でのモダンとポストモダンを対比させながら、その系譜を辿る議論が展開されている。その補助線として『現代建築のトリセツ』を手に取った訳だが、モダンとポストモダンに関わる部分については、『都市景観の20世紀』を取り上げる際に論じるので、今回は割愛する。

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興味を引いたのは、アドルフ・ヒトラーお抱えの建築家であるアルベルト・シュペーアが創案した「廃墟価値の理論」である。
時は、1930年代。
シュペーアは、ヒトラーに、1936年にナチス・ドイツのベルリンで開催されるオリンピックスタジアムは、後世に威信や偉大さを伝えるために、数百年経ち、後世に廃墟となっても存在する材質を用いなければならないと主張した。ヒトラーはご満悦であったという。確かに、古代エジプトのピラミッドやローマ帝政期のコロッセウム、万里の長城法隆寺などの建造物を見る度に当時の為政者の偉大さを感じない訳ではないが、それは後世に自らの威勢を誇示するというよりも、その時代における権威や象徴として建造されたと考えるのが自然である(「北斗の拳」におけるサウザーの聖帝十字陵は師匠のための墓標だったが(笑))。
それを逆手にとって、しかも、まだ高度経済成長を経験していないというか、1929年及び1931年の世界恐慌にあえいでいる経済状況の中で、廃墟となったもしくはなることを想定して、時代に挑戦するその姿勢は、凡人では及びもつかないところである。

『現代建築のトリセツ』の副題にもあるように、オリンピックと言えば、2020年には東京での開催が決定しており、そのスタジアムの新国立競技場の建設は、一時、世間の関心事となった(現在は、東京都中央卸売市場に話題を掻っ攫われているが(笑))。
マスコミの喧伝により、皆さんの頭に真っ先に思い浮かぶのは、競技場の天井に渡された2本のキールアーチと設計者であった故ザハ・ハディド(2016年3月31日逝去)の面影だろう。もしかすると、設計デザインコンペの審査委員長である安藤忠雄の記者会見シーンかも知れない(安藤は、自身が新国立競技場の設計デザインを出来る立場にありながら、それでは東京オリンピックが国際的な話題とならないことを懸念し、私心を捨てて、あえて国際コンペを導入した)。
いずれにせよ、建設費用が過大ということで、耳目を集めたことは間違いない。当時から感じていたこと(というかこの手の騒ぎに対してはいつも感じるの)だが、3,000億円と1,500億円の金額の多寡は一目瞭然であるものの、ナショナルシンボルである新国立競技場の建設費用の適正価格を誰が判断出来るのだろうか?
しかも、旧国立競技場は、当初は1964年の東京五輪のためにではなく、1958年のアジア大会のために建設された競技場に無理な増築を重ねて、一部は道路と重複するなど、必ずしも適切であるという状態ではなかった。他にも周辺の景観との整合性などの問題もある中で、建設に向けての手続きが進められていた。

著書では、国際的知名度の高く、最高級の設計者であるザハ案を拒絶し、しかもそれが正式な手続きが行われた上での白紙撤回であったことに対して、日本の建築界の国際的信頼が失墜したと指摘している。あの騒動の中で、そう主張した冷静な人々はいたものの、犯人探しのお祭り騒ぎの最中では、それに耳を貸す人は皆無であった。さらに、ザハが選定された1回目の設計デザインコンペに応募した46件の中から、ザハ案への反対運動をした建築家がいたことも問題が大きいと言える。

本書には、米国の大統領選挙を戦っている不動産王トランプも触れられていた。エンパイア・ステートビル(381m)が世界一のビルとして建設された1931年当時、世界での高いビル上位100位はすべて米国(しかもニューヨークには1位から14位のうち13件があった)にあった。ニューヨーク以外に目を移すと、1974年に、当時の世界一であったワールド・トレードセンタービル(417m)を抜いて、シカゴのシアーズタワー(442m)が完成し、世界一となった。
その後、20年あまりは米国内での世界一争いが展開されたが、1996年にマレーシアのペトロナスツインタワー(452m)が完成し、様相は一転。その後、アジア勢が隆盛を誇ることとなった。以後、米国勢は後塵を拝していたが、2001年の同時多発テロでワールドトレードセンタービルが崩落後、かのトランプが、「世界一の超高層ビルを米国に」と主張して、新トランプタワー(609m)をシカゴに作るといい始めた。結局は、2009年に423mの高さのビルが完成したが、ここでの主張と行動力が、テロに対抗しなければならない米国民の「愛国心」をかきたてたこととなり、結果として米国内に名前が知れ渡り、現在の大統領候補に繋がっていると松葉は推察してる。物事を単純にとらえる訳にはいかないが、まさしく不動産王の面目躍如であり、This is U.S.A! といったところか。

2020年東京オリンピックパラリンピックと米国の大統領選を現代建築が橋渡しをするという興味深い1冊をぜひ!